人物列伝

老舗の春 ― 甘香堂、四代目への暖簾

Garoop NovelCh.01
鎌倉、小町通りから一本奥に入った石畳の路地。創業百四十年の和菓子屋『甘香堂』の暖簾を、清水小綾はそっとくぐった。店の奥に通された応接間には、八十二歳の女将・里子と、東京から戻ってきたばかりの孫・誠が並んで座っている。「先生、ついに、決めたんです」――里子の声は、低いが、確かだった。代替わり。事業承継。それは、彼女の家業がこの店で迎える、四度目の世代交代だった。「孫の誠が、継ぎたいって言うてくれたんです」。里子の手は、和紙のように皺が深く、それでも、その手で握る湯呑みは、決して震えなかった。
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育てる・調教・産む