長崎物語

市電のリズム ― 坂の街を編む一本の糸

Garoop NovelCh.05
ある日、市電の運転士・松田さんに、話を聞く機会があった。市電の運転士、勤続四十年。「長崎の坂の上の家、子どもの頃から市電で通学してました。だから、運転士になったときは、自分の街を、毎日、走らせている感覚で、嬉しかったですね」。彼の話は、淡々としていた。けれど、その背景には、四十年分の、長崎の風景が、確かに、堆積していた。「一番好きなのは、雨の朝の市電です。傘をさした人たちが、駅で待ってる。ベルを鳴らして停まると、皆さん、ほっとしたような顔で乗ってくる。あの瞬間が、運転士冥利に尽きる」。
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