長崎物語

市電のリズム ― 坂の街を編む一本の糸

Garoop NovelCh.01
朝七時、長崎駅前。市電の発車ベルが、街の一日の合図のように響く。緑と黄色のツートンカラーの古い車両が、ゆっくりと走り出す。長崎の路面電車は、明治三十六年に開業して以来、ずっとこの坂の街の生活を支えてきた。観光客向けの装飾もなく、通勤通学の人たちが、当たり前のように乗り込み、当たり前のように降りていく。運賃は、大人百四十円。安くて、便利で、坂の街を縫うように走る。長崎で暮らすということは、市電のリズムと、共に生きるということだった。レールに刻まれた、ガタンゴトンの音が、街そのものの心拍のように、いつも、どこかで響いている。
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育てる・調教・産む