人物列伝

移住者の確定申告 ― 鎌倉のイラストレーター、はじめての一年

Garoop NovelCh.01
二月の鎌倉、まだ風は冷たい。江ノ電の踏切が下りる音とともに、清水小綾の事務所のドアが開いた。入ってきたのは、東京から鎌倉に移住したばかりのイラストレーター・優子だった。三十二歳。フリーランス三年目。「先生、初めての確定申告で、何から手をつけていいか、本当に分からなくて……」。彼女の手には、コンビニの袋が二つ。中には、しわくちゃの領収書とレシートが、まるで一年分の混乱そのもののように、無造作に詰め込まれていた。小綾は袋を覗き込み、笑った。叱るためではない。ここから一緒に整理していく、その喜びを思って。
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育てる・調教・産む