颯太は、十歳だった。福岡の郊外、団地の四階に住む小学五年生。父親は単身赴任、母親はパート二つ掛け持ち、家には一人でいる時間が長い。ある夏の午後、彼は、YouTube で、ガルちゃんの紹介動画を、偶然、見つけた。シングルマザーのカンガルーが、生成AIで、絵本や文章を作って、生計を立てる。「お母さんも、こうなれるかもしれない」――颯太は、そう思った。動画の最後に、Garoop鍛校の案内が出てきた。十歳から、入校できる。Pro プランは年間五万二千八百円。彼の貯金箱には、お年玉とお小遣いが、五千円ほど、入っているだけだった。 夜、母親が帰宅した時、颯太は、貯金箱を持って、台所に立っていた。「お母さん、お願いがある」。母親は、疲れた顔で、そんな息子の真剣な表情を見て、ぎょっとした。「これに、入りたいんだ」。彼が見せたのは、Garoop鍛校のページの、印刷した紙だった。「教えない。鍛える」と、大きく書かれている。母親は、紙を、しばらく、黙って見つめていた。「颯太、お金、どうするの」。「俺が、自分で稼いで、返す。だから、最初の半年だけ、貸してほしい」。母親の目に、涙が浮かんだ。彼女は、頷いた。「分かった。でも、本気で、やるんだよ」。颯太は、深く頭を下げた。 鍛校に入った颯太の最初の課題は、『生成AI道場』の絵本制作だった。ChatGPT で物語を考え、画像生成AIで挿絵を作り、自分で編集して、一冊の絵本に仕上げる。最初の一週間、彼は、何も完成させられなかった。プロンプトの書き方が分からない。AIが返してくる絵が、思っていたものと違う。途中で投げ出しそうになって、Slack のサポートチャンネルで、質問を投げた。返事は、五分で来た。「颯太くん、まず、絵じゃなくて、お話の方を、最後まで作ってみよう。絵は、それから」。シンプルな助言だったけれど、彼にとっては、ピンと張った糸を、誰かが、ほぐしてくれたような感覚だった。 三週間後、颯太は、最初の絵本を完成させた。題名は『お母さんが帰ってくる夕方』。小さな男の子が、夕方に帰ってくる母親を、台所で迎える話。AIが描いた絵だけれど、男の子の表情には、颯太の心が、確かに乗っていた。彼は、Garoopのプラットフォームに、その絵本を投稿した。次の課題は、『商い鍛校』。自作の絵本に、自分で値段をつけて、売る。颯太は、四百円という値段をつけた。「自分のお小遣いで、一冊買えるくらいの値段」。投稿してから、十二時間後、最初の購入者が現れた。買ってくれたのは、福岡に住む、別の小学生の母親だった。 「颯太くん、はじめまして。息子に読んであげたら、泣きました。私もシングルマザーで、最近、息子と、すれ違うことが多くて。この絵本に救われました」――購入者からのメッセージが、Slack で、颯太に届いた。彼は、画面の前で、しばらく、動けなかった。お金よりも、その言葉が、彼の中の、何かを、確かに、変えた。「自分が作ったものが、誰かの心に、届く」。それは、十歳の彼にとって、初めての、本物の経験だった。母親が、夜、帰宅した時、颯太は、四百円を、母親の手に渡した。「これ、最初の売上。ありがとう」。母親は、握りしめた四百円を、しばらく、手放せなかった。 次の半年で、颯太は、絵本を、合計で十四冊、作った。月に二、三冊のペース。発信鍛校では、X のアカウントを開設し、絵本の制作過程を、動画で発信するようになった。フォロワーは、半年で、千七百人を超えた。途中、批判的なコメントも、来た。「子どもがAIで稼ぐなんて、許されない」。颯太は、最初、傷ついた。しかし、メンタリティ鍛錬のチューターから、こんなメッセージが届いた。「批判は、君の作品が、誰かの目に、ちゃんと届いた証拠です。批判ゼロは、無風です。颯太くん、君は、いま、世の中に、風を起こしています」。 鍛校に入って、ちょうど一年が経った日、颯太は、累計で、絵本を二十二冊作り、合計で十六万円を稼いでいた。母親は、その成果を見て、もう、彼の挑戦を、完全に応援する側に、なっていた。「颯太、お母さんね、あなたを誇りに思うの」。颯太は、照れて、頬を赤くした。彼は、その夜、ノートに、こう書いた。『お母さん、いつもありがとう。これから、もっと、たくさん作る。お母さんの分まで、世界に届ける』。十歳の少年が、生成AIを使って、自分の事業を、自分のペースで、立ち上げている。それは、Garoopが、本気で、見たかった景色だった。 ある夜、颯太のもとに、Garoopから、特別なメッセージが届いた。差出人は、代表・山下大貴。「颯太くん、君の作品を、毎月、僕も読んでます。今月、Garoopの『子供投資ファンド』に、君の事業を、第一号として、登録させてもらえませんか」。返信を打つ颯太の指は、震えていた。「やります! ぜひ、お願いします!」。彼は、その夜、母親に、Garoopからのメッセージを、何度も、声に出して、読み上げた。台所の窓の外、福岡の夏の夜空に、星が、いつもより、明るく、瞬いていた。十歳の起業家が、出発の合図を、受け取った夜だった。