長崎物語

卓袱の食卓 ― 丸い卓に、世界が集う

Garoop NovelCh.04
英子の半生は、卓袱料理の歴史と、重なっていた。十六歳で、青柳に、女中として入った。両親は、長崎の漁師で、貧しかった。「料理が好きで、入ったわけじゃない。働き口が、ここしかなかったんよ」。それでも、彼女は、毎日、卓袱料理の現場で、学んだ。先代の女将から、お辞儀の角度から、お皿の置き方から、お客様への目の配り方まで、徹底的に、教え込まれた。三十歳で、結婚を機に、店を継いだ。「気がついたら、五十年、たってましたわ」。彼女の手は、皺だらけだが、その動きは、若い板前よりも、ずっと、繊細だった。
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育てる・調教・産む