市の危機管理室で、ガルちゃんは深夜の通信ログを一枚ずつ重ねていた。シングルマザーの朝は早い。だから彼女の仕事は夜に寄る。ノイズだらけのデータの中に、毎晩2時13分だけ現れる赤い点があった。 発信元は毎回違う。だがパケットの揺れ方だけが同じだった。子どもを寝かしつけたあと、ガルちゃんは冷えた紅茶を飲みながら、統計モデルを更新する。偶然に見せかけた規則性は、いつだって人の意図を隠している。 翌日、彼女は交通管制システムの保守会社へ向かう。受付の笑顔の裏で、端末の時刻だけが三秒遅れていた。ガルちゃんはそのズレをメモする。『攻撃者はここを中継に使う気だ』直感ではなく、時系列がそう語っていた。 夜、2時13分。赤い点は再び灯る。ガルちゃんは待ち伏せた回線で流量を絞り、偽装パケットを逆探知した。浮かんだ先は、廃業したはずのデータセンター。そこで動いていたのは、停止済みのはずのサーバ群だった。 彼女は報告書の最後に一行だけ書いた。『本件は単発ではない。誰かが都市の呼吸を測っている』。ポーチで目を覚ました子どもが、彼女のIDカードを握る。ガルちゃんは笑ってカードを取り返し、次の夜に備えた。