夜明け前の港は、潮とディーゼルの匂いで満ちていた。ガルちゃんは子どもをポーチに入れたまま、濡れた桟橋を静かに歩く。今朝、保育所向けのミルク缶だけが倉庫から消えた。金庫も現金も手つかず。狙いが奇妙すぎる。 管理人のペリカンは『誰も入ってない』と繰り返したが、ガルちゃんは床の水跡に目を留める。重い荷を引いた跡が一筋、港の奥へ伸びていた。カモメの鳴き声に紛れ、子どもが小さく笑う。『ママ、あっち』とでも言うように。 痕跡の先は、使われなくなった魚市場だった。そこには盗難品のミルク缶が整然と積まれ、代わりに古い粉ミルクが箱詰めされている。ガルちゃんは匂いを嗅ぎ、期限切れの印字を確認した。誰かが差し替えようとしていたのだ。 『これは盗みじゃない。偽装だね』ガルちゃんは通報し、食品監査局へ証拠を送る。背後で足音がした。逃げるタスマニアデビルの運搬業者を、彼女は尾で足を払って転ばせる。『子どもの口に入る物で、儲けるな』 朝日が上がるころ、倉庫には本物のミルク缶が戻っていた。事件は解決したが、黒幕はまだ見えない。ガルちゃんはポーチの子どもを抱き上げる。『次の手を打ってくる。だったら、先に見つけるだけ』